奏 〜Fantasia for piano〜

あの頃の私は幼くて、世界という言葉にそれほど大きなスケールを感じていなかった。

でも奏の影響でピアノをかじり、世界で活躍するピアニストになることが、どれほど難しいことなのかを今は知っている。

そして、奏なら、できるんじゃないかということも……。


奏の音は、他の人の音となにかが違う。

テクニックだけじゃなく、心を揺さぶるような特別なものを持っていた。


中学生になったとき、田舎にいる私のおばあちゃんにこんなことを言われた。

『香月さんとこの奏ちゃん、覚えてるかい?
あの子、ピアノの勉強しに外国の音楽学校に行ったらしいよ。すごい子だねぇ』


それを教えてもらったとき、喜んだのに。

着実に夢に向かっている奏を、嬉しく思ったのに。

それなのに、どうして……。



< 7 / 264 >

この作品をシェア

pagetop