奏 〜Fantasia for piano〜
あの頃の私は幼くて、世界という言葉にそれほど大きなスケールを感じていなかった。
でも奏の影響でピアノをかじり、世界で活躍するピアニストになることが、どれほど難しいことなのかを今は知っている。
そして、奏なら、できるんじゃないかということも……。
奏の音は、他の人の音となにかが違う。
テクニックだけじゃなく、心を揺さぶるような特別なものを持っていた。
中学生になったとき、田舎にいる私のおばあちゃんにこんなことを言われた。
『香月さんとこの奏ちゃん、覚えてるかい?
あの子、ピアノの勉強しに外国の音楽学校に行ったらしいよ。すごい子だねぇ』
それを教えてもらったとき、喜んだのに。
着実に夢に向かっている奏を、嬉しく思ったのに。
それなのに、どうして……。