奏 〜Fantasia for piano〜
騒つく教室の中、先生に促されて奏が口を開く。
「香月奏です。フランスで数年生活していましたが、先月帰国し、ここに編入となりました。
よろしくお願いします」
誰かが「帰国子女!」と大きな声で反応すると、冷やかすような男子の笑い声や、憧れを込めた女子の溜息が聞こえてきた。
またザワザワと騒がしくなる教室内で、私だけ泣きそうな思いでいる。
どうして、こんな場所にいるの?
まさか、ピアノを辞めていないよね?
私の異変に気付いてくれたのは梨奈で、前の席から心配そうな目を向けてきた。
「綾、どうした?」
「写真の、男の子……」
まだショックの中にいる私は、それだけ答えるのが精一杯。
でも梨奈はすぐに分かってくれて、「マジで⁉︎」と驚きを口にした後に、興奮して私の手を握りしめてきた。
「すっごい奇跡じゃん!
ピアノの王子様と再会なんて、これって運命じゃない⁉︎」
奇跡……そうかもしれない。
奏と出会ったのは、おばあちゃんの住む田舎町だった。
私は五歳の二ヶ月ほどをおばあちゃんの家で過ごして、また両親のいるこの街に戻ってきた。