恋する任務は美しい〜メガネ上司の狼さんと訳あり隠密行動〜
大上部長の唇からようやく解放されたとき、涙がぴたりと止んでいることに気づいた。

「これ以上、もう俺に関わらないほうがいい」

「……どうして」

「キスして悪かった。ゆっくり休め。体調が悪かったら明日、休んでかまわないから」

と、わたしを置いて大上部長は部屋をあとにした。

「大上部長……待って」

わたししかいない部屋の中で大上部長を求める声はむなしく響くだけだった。

どうしてそんな冷たいことを言い残すんだろう。
キスなんかしなくてよかったのに。

次第に募ってきた大上部長の想いがおさえきれなくなり、溢れ出てくる。
あんなに嫌いだと思っていたのに。

好きになってしまいそうになる気持ちを抑えていたのに。

今更関わらないほうがいいだなんて。

明日から大上部長に対してどう接していいのかわからない。

この好きという気持ちをまた閉じ込めて接していかなくてはいけないか、と思うと気が重くなる。

それに仕事のこと、『カントク』での任務だ。

わたしはこれから『カントク』で力を発揮できるんだろうか。
また大上部長に迷惑をかけてしまうんじゃないんだろうか。

いろんなことがふりだしに戻ったようで頭が真っ白になる。
明日、仕事へ行けば気持ちを切り替えることができるんだろうか。

答えが出ないまま、誰もいないこの部屋で一夜を過ごした。
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