恋する任務は美しい〜メガネ上司の狼さんと訳あり隠密行動〜
「なんだ?」

そう一言つぶやき、男が壇上へとゆっくりとした足取りで近づいてくる。

「誰か、いるんじゃない?」

男の後ろを歩く女の声が震えていた。

これはまずい。
わたしの計画が水の泡だ。

横にしゃがんでいた男が突然立ち上がり、すかさずわたしの腕をとりわたしを立ち上がらせると、壇上の壁に背中を押し付ける。
わたしの前に立つと、おもむろに唇を重ねてきた。

驚きとショックで何も抵抗できない。

こんな激しいキスされたこと、初めてだ。
息苦しくなり、口の端から息が漏れる。

「んっ、んん……」

首を振っても唇を離してもらえない。
こんなの見せつけるためにここに来たんじゃないのに。

女と一緒に来た男は大会議室の中間地点で足を止めた。

「……なんだ。先客がいたのか。またにしよう、加奈」

そういって大会議室から出て行った。

二人が大会議室から出ていったあともしばらくキスはやめてもらえなかった。

なんとか両手で男の胸を叩き、ようやく解放された。
息を整えて、わたしは男を睨んだ。

「いきなりキスっておかしくないですか!」

「こうするしか方法はなかった。そういいながら、まんざらでもなさそうだったけど」

そういって唇を舐めながらクスクスと男は笑う。

「ふざけないでくださいよ! とっておいたのに」

「とっておいただと? 聞いてあきれるな」

「あなたには関係ありません。セクハラ申請しますから」

「どうぞご自由に」

わたしはその男を残し、逃げるように大会議室のドアからその場をあとにした。

なんなの、いきなり来て、しかも大事なキスを奪うなんて。
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