恋する任務は美しい〜メガネ上司の狼さんと訳あり隠密行動〜
創業記念パーティーは定刻通り滞りなく行われた。
社長をはじめ役員挨拶があり、それから歓談の時間が設けられ、立食形式で行われているので、社長や役員の周りにはグラスを持って話し込む取引先や子会社の社長がかたまりをつくって話し込んでいた。

その中に大上部長も珍しく入っており、笑いをまじえながらコミュニケーションを図っていた。
大上部長はスーツを着た中年の男性に声をかけられ、囲んでいた場を離れてその男性と一緒に連れ立って入り口近くに立っていた肩まである茶色のストレートヘアに白いワンピースを着た女性に挨拶をしていた。

多く人たちが囲んでいるなかで一際輝いてみえたのは社長の隣にいるあおいさんだった。
白いジャケットにラメの入った黒いワンピースを着ていたのだが、スポットライトなんかあたっていないのに、他の女性よりも品があり、美しさを放っていた。

その周りにいたおじさまたちも目尻を垂らしながら話しかけている。

「ビール、お代わりもらえないかな」

と、銀色のトレーに空のグラスを乗せて後ろから聞きなれた声がした。

振り返ると、そこにはブラックスーツにネイビーのネクタイ、白のポケットチーフをさした津島がいた。

「『カントク』はそんな格好して仕事するのか。ずいぶんと落ちぶれたな、萌香」

わたしをじろじろと興味深そうにみている。

「大きなお世話よ」

と、津島の空のグラスをふんだくるようにトレーに乗せて、他の社員の分もあわせてすぐに持ってきて、津島にビールグラスを渡した。

「お前もパーティーに出席したかったから無理してそんな格好してるのか?」

「別に関係ないでしょ。それより」

「なんだよ」

「どういうつもりでこのパーティーに出席したの?」

わたしは津島に強い口調であたる。

「責任者として出席してるだけだよ」

「去年は出席しなかったくせに」

「責任者じゃなかったからな。何をそんなにカリカリしてんだよ。日頃のストレスでもたまってるのか」

津島はからかうようにそういうと、おいしそうにビールを口に運んだ。
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