恋する任務は美しい〜メガネ上司の狼さんと訳あり隠密行動〜
「先に進みたいか。それとも俺たちに伝えたいことはないのか?」

大上部長の熱い息が首筋にかかる。

「お前は何かをつかんでいるんじゃないのか?」

大上部長は今度は右耳に口を近づけると、小さくささやいた。

「それは……」

「上司に相談する義務を怠っているぞ、椎名萌香」

寒い季節ではないのに、体が勝手に震えてくる。
これ以上黙ったままだとしたら、この先は一糸もまとわない状況で話をしなければいけない。
大上部長だけでなく、戸塚さん鈴井さんの目の前で。

「……『カントク』のこと、バラしたくなかったので」

「それで?」

話したのに、まだわたしにまたがったままで、やめようとしない。

「野村加奈と取引することになって」

「それがあおいを連れてくるという話なのか」

「……はい」

大上部長の目をみつめてうなずいた。
すると、大上部長の瞳から獣のような荒々しい視線は消えていた。

「でかしたぞ、椎名萌香。鈴井、戸塚、もう離していい」

戸塚さんと鈴井さんは押さえつけていた手を離すと、ようやく拘束がとけた。
大上部長はわたしから体を離し、ベッドから降りた。
わたしは体を起こし、ベッドの縁に座った。

「自分で抱えなくていい。お前は『カントク』を救うべくして取引したってことだよな」

「なんとかしたい、と思ったんです」

絞りだすように話すと、大上部長はうんうんと頷いてくれた。

「この件は俺が預かる。野村加奈と今後接触することになったら報告するように。あおいにはこの件は伝えておく」

あおいさんに何かあったらどうしよう、と不安になった。

「安心しろ。『カントク』はつぶれない。つぶさない。作業班も特別班の人間もそんなヤワな人間じゃない。たたきあげの人間ぞろいなこと、よくわかっているのはお前だろ?」

「今日はゆっくり休め」

ぽんぽんと、軽くわたしの頭をたたくと、戸塚さん鈴井さんとともに部屋を後にした。
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