恋する任務は美しい〜メガネ上司の狼さんと訳あり隠密行動〜
仕事を終えると、スマホにメールが入っていた。
野村加奈から連絡だった。

金曜日の夜に取引をしようともちかけられた。
もちろん大上部長にすぐに報告する。

取引場所は大上部長から『HOTELパシフィックSHINOZAKI』を指定された。
その通りメールを送ると、野村加奈は了承した。

「あとは俺に任せろ。大丈夫、指一本触れさせないよ、二人には」

自信たっぷりに語る大上部長の横顔がとても凛々しく思えた。

金曜日になり、わたしの仕事を終えると秘書の仕事して戻って来たあおいさんと『カントク』の部屋で合流した。

「大丈夫よ。大上部長や他のみなさんがついているわ」

と、にっこりと微笑んでくれた。
『カントク』の部屋を出て、非常階段から上へと進む。
野村加奈との取引にのぞむ場所は、わたしの部屋だった。

取引の時間は20時。
野村加奈が来るまで二人で待っていた。

わたしは不安で頭がいっぱいだったけれど、赤いワンピース姿のあおいさんはルームサービスを頼んで窓辺に座り、夜景をのぞみながら優雅に紅茶をたしなんでいた。

20時を過ぎた頃、部屋のベルが鳴る。
ドアを開けると、黒いパンツスーツ姿の野村加奈と、仕事帰りで駆けつけた津島がいた。

「どうぞ、入ってください」

二人を部屋に案内すると、野村加奈はあおいさんに近寄った。

「篠崎あおいさんね。秘書らしく華やかなお人ですね」

「褒めてくださって光栄ですわ。わたくしに何か御用でも?」

きれいな手で上質な紅茶のカップをソーサーにのせて、小首を傾げている。

「取引をしてほしいんです」

「取引? どういうことかしら?」

「新業態で行おうとしている事業にぜひとも業務提携をお願いしたんです」

「どこの会社かしら?」

「倉岩コーポレーションです」

すると、その企業名を聞いたあおいさんの顔が曇った。
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