恋する任務は美しい〜メガネ上司の狼さんと訳あり隠密行動〜
「それはできない約束ですわ。かつてスパイ活動をしていた子会社と手を組もうだなんて」

そういうと、あおいさんは鼻をフンと鳴らした。
それを聞いた野村加奈は顔を真っ赤にしている。

「いろんな社員が『カントク』に飛ばされているって話じゃないか。そこがなくなったらその社員たち、路頭に迷うんじゃないか?」

黙った野村加奈をみながら津島が応戦する。

「まあ、心配してくださるなんて、ウチの会社への忠誠心は残ってらっしゃるのね」

あおいさいんは退屈そうにため息をついて、紅茶カップに残っていた紅茶を飲み干している。

「そんなこと望んでねえんだよ。どうするんだ?」

「答えはノーですわ」

珍しくあおいさんの口調が鋭く胸に刺さる。
野村加奈と津島はその声に一瞬ひるんだけれど、二人とも咳払いをしてごまかしていた。

「わかった。『カントク』のこと、公表する。これでこの部署もなくなって会社の底力が消えてしまうんでしょうね」

「さあ、それはどうかしら?」

あおいさんは胸にかかる髪の毛を指で背中へ流している。

「どんなことをすれば喜んでもらえますかね」

津島があおいさんに接近する。
あおいさんは全く動じない。

「あおいさんっ!」

とめようとすると、野村加奈がわたしの手をとる。
細いわりに力強くて解こうとすればするほどピンク色のネイルが腕に食い込む。

津島は座っていたあおいさんに覆いかぶさろうとしている。

「そんなことをしても何の得にもならないわよ」

「おたくみたいな金持ちは苦労なしで生きられてる。少しは苦労ってものを知れよ」

「それだけですか。わたくしに申したいことは」

「なんだよ!」

津島は落ち着き払ったあおいさんをみて、着ているワンピースの上着に手をかけていた。

「そんなリスクを背負ってまで自分勝手に遂行しようだなんて。社員精神が備わっていると思ってましたのに、残念ですわ」

うふふ、とあおいさんはまっすぐな目をして津島をみつめると、津島が力づくであおいさんの上着を引き剥がした。
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