恋する任務は美しい〜メガネ上司の狼さんと訳あり隠密行動〜
「……怖かった」

物々しさが静けさに変わる。
この部屋には大上部長とわたしの二人きりになった。

急に体の力が抜けて、へなへなと絨毯に座り込んでしまった。

「珍しいな。おまえがそんな顔するなんてな。無理もないか」

ほら、と大上部長は右手を差し伸べる。
大上部長のメガネの奥は、さっきまで津島や野村加奈を睨んでいたのに、わたしまで睨むのかとドキドキしたけれど、穏やかなまっすぐみつめる目をしていた。
わたしはおそるおそる右手をのばすと、ぐいっとわたしの手をひっぱってベッドの縁に座らせてくれた。

「そもそもだ。勝手な行動が招いた結果だけれども」

「ごめんなさい」

反論できない。

「自分だけで行動するな。仕事はみんなでするものだって言っただろ、自分で」

「そうですけど」

「……俺に頼れよ」

心配そうにわたしの顔を伺っている。
そんな表情みたの、初めてだ。

「わかってます、わかってますけど……」

どうしても津島に一泡吹かせてやりたかった気持ちのほうが大きかった。
結果、特別班のひとたちに迷惑をかけてしまったけれど。

「ここでもしっかり聞き分けのいい子だな」

と、くしゃくしゃと犬をあやすように、わたしの頭を撫でる。

「だが、すべては想定内だったけどな」

「え、どういうことですか?」

「野村がけしかけてくるのは当然だ。あのギャップに男はやられるんだろう。ライバル会社の社長の愛人だからな、あいつは」

「……そこまで知っていてなんで教えてくれなかったんですか」

「いろいろと問題がある」

「問題って。あぶなかったんですよ」

「知ってる。本当はお前を巻き込みたくはなかったんだよ」

大上部長は深刻そうに下を向いた。
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