恋する任務は美しい〜メガネ上司の狼さんと訳あり隠密行動〜
「以上だ。椎名萌香。ご苦労様」

と、ポツリというと、大上部長は立ち上がる。

「これで終わりなんですか?」

「ああ。無事に任務は遂行した。それではまた月曜」

わたしの顔をみずに部屋を立ち去ろうとした。

「大上部長はわたしを最初から利用しようとして、『カントク』に入れたのを了承したんですか」

わたしは大上部長の大きな背中に問いかける。

「そうとってもらってもかまわない」

「……ひどい」

最初からわたしありきで計画していただなんて。
『カントク』で頑張っていこうって少しずつでも思えてきたのに。

「安心しろ。仕事、用意するから」

大上部長は入り口に向かい、ドアノブに手をかけた。

「大上部長のこと、見直そうとしていたところだったのに」

大上部長へ叫んだ声が震えていた。
気がつけば頰に涙をつたい、こぼれ落ちた。

大上部長はわたしに顔を向ける。
すぐにわたしのそばへと駆け寄ると、

「そんな顔するな。ごめん」

と、わたしを力いっぱい抱き寄せた。
せっかくの高価な上着がわたしの涙で台無しだ。
大上部長も震えている。

「傷つけて悪かった。ごめんな」

わたしは泣き止まないままだったが、大上部長はキスをくれた。
唇から春の木漏れ日に似た温かさを感じる。
こんな優しいキスは初めてだった。
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