クラリネット吹きはキスが上手いのかという問題について
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3月の紳士服店は一番の稼ぎ時。
今日はお客様が多いなぁ。
新生活前、気合い入れて頑張るぞっ。
接客していたお客様をお見送りした後。
「すみません、礼服、出来てますか?」
と、スーツ姿の背の高い男性に声をかけられた。
あら、なかなかいい男の雰囲気……って顔を見ると、
……麻生くんっっ‼︎⁉︎
ぶっちゃけ、見違えた。
髪、短くなってるし。
スーツに着られてない。
ちゃんと着こなしてるし。
フレッシュな好青年です、って感じよ!
一体、君に何が起きた⁉︎
「今日、入社説明会だったんです。灯里さんに見せたくて、そのまま来ちゃいました」
……その格好で、その笑顔で、あたしの名前を呼ばないで。
ぐらっと来そうになるから。
あたしってばどれだけスーツフェチなんだよ!と自分にツッコむ。
「礼服ですよねっ、出来てますよ。着てみますか?」
「いえ、今日はお客さんが多くて、灯里さん忙しそうなので、やめておきます。本番までとっておきます」
あら。なかなかの気遣い。
「でも、本番前に一度家で着て、楽器吹くのに窮屈じゃないか、確認しておいたほうがいいですよ」
「ああ、それはします。でもさっきのはそういう意味じゃなくて」
「え?」
「灯里さんに見せるの、本番までとっておきます」
…………まじか。
この間から、スーツを着ると強気になる麻生くんに、どうも調子を狂わされるな。