クラリネット吹きはキスが上手いのかという問題について

◇◆◇

4月になり、麻生くんは、社会人になった。
仕事からそのままオケの練習に来るらしい。

あたしが選んであげたワイシャツ姿でクラリネットを吹く姿も、なかなかに……って、何意識してんの。

急に大人っぽくなったせいだ。うん。
ギャップのせいだ。うん。

「灯里さん、お疲れ様でした」

名前呼ばれるせいだ、うん、……って、おっつ、本人登場。

「お、お疲れ〜」

袖をまくったワイシャツから覗く腕にドキっ……、
絶妙なスラックスの長さからのぞくピカピカの大きな革靴にドキっ……、

って、ああ、あたしって変態。



◇◆◇



ある夜、仕事中。

女性のお客様に何故か愚痴られていた。

アラフォー独身だそうで。
新入社員の教育のこと、
これから先のキャリアのこと、
あたしにまで愚痴るなんて、よほどお疲れなのね、と、うんうんひたすら聞き役に徹した。

お買い上げいただいたのはブラウス一枚だけど、「何だかすっきりしたわー、ありがとー、また来るわねー」なんて晴れ晴れしたお顔で帰られると、よかったよかった、と思えるわ。
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