クラリネット吹きはキスが上手いのかという問題について

◇◆◇

で、ただいま、2人であたしの顔馴染みの定食屋さんに来てる。
おいしいし、栄養バランスいいし。
落ち込んだ時には、ちゃんと栄養とらないとね。

とはいえ。

「あたし、非正規労働者なので、お役に立てないと思うんだけど……」

「社会人としての先輩であることに変わりはありません。お話できるだけで勉強になりますし、楽しいので」

と言いながら、彼は上着を脱ぎ、ネクタイを緩め、第1ボタンを外して、腕まくりをした。

……やっばい。

ドキっとした。

生でネクタイ緩めとか、ずきゅんとくる。

あたしってばどれだけスーツフェチなんだよ、と再び自分にツッコむ。

「お待たせしました〜」

料理を運んできてくれたのは、ビオラの大先輩、和歌子さん。

「灯里ちゃんが麻生くん連れて来てくれるなんて、うれしいわぁ〜。麻生くんもすっかりスーツ姿が板についたね。素敵っ!」

恥ずかしそうに笑う麻生くん。

「着こなす研究しました」

なんて答えてる。

以前の彼なら引いてもおかしくないマダムのテンションなのに。
頑張って返すようになったのね。
その一生懸命な感じ、嫌いじゃない。
むしろ好感が……って、あれ?
待て待て。
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