クラリネット吹きはキスが上手いのかという問題について
彼の手にはクラリネット。
少し前に入った若い子。
えーと、名前何だっけ?
ま、いいか。

「こんにちは。ビオラの小川です」

にっこり笑顔でご挨拶。

「あ、ども……」

確かまだ大学四年生。
あたしが25だから、3つ下かー。
ひょろっとした、真面目で大人しい感じの男の子。いわゆる草食系男子。
押しには弱そう。
現に今、あたしに話しかけられて、明らかに引いてる。

「そのスーツ、いつ作ったやつ?」

「……高校三年の時ですかね……」

「もしかして、それから、背伸びた?」

「あ、はい。背伸びて、痩せました」

「それだ!」

あたしはビシッとスーツを指さす。

「もったいないよ! シルエットが崩れてる。丈も微妙に短い」

彼は自分のスーツを見てつぶやいた。

「まあ、確かに……。でも、着られないことはないですが……」

「そーゆー問題じゃないの! スーツは男の戦闘服! あの2人ご覧なさいっ!」

あたしは向こうの壁際にいる、さりげなく高級スーツを着こなしてる20代後半のイケメン二人組を指さした。

「スーツ姿は何割増しかで男性をかっこよく見せてくれるんだよ! 自分の体型に合ったものを着れば、あの位はいけるよ!」

「いや、あのお2人はさすがにレベル高すぎです……」

あ、わかってらっしゃる。
彼らは顔もスタイルもいいし、積み重ねてきた人生からの自信がにじみ出てて、服に負けないタイプの人間だ。
大学生じゃ太刀打ちできない。

「4月から社会人? スーツ着る職種?」

「はい……」

「他にスーツ持ってるの?」

今は2月。買っちゃってるかな。

「いえ、これと、リクルートスーツしか……」

よし! これはいける!

あたしは、自分が勤めてる店の名前を出した。

「あたしが選んであげる。今度お店にいらっしゃい!」



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