クラリネット吹きはキスが上手いのかという問題について
「学生なんで、練習時間はたくさんあるんです」

「そっか。うらやましいなぁ〜。それもあとちょっとだろうけど」

「そうなんです。皆さん社会人なのにいつ練習してるんだろうって、そのほうが尊敬です」

「まー、時間がないなら、ないなりに、何とかするしかないけどねぇ」

「……俺は、実は不安です。4月から社会人になっても、ちゃんとやっていけるのか」

「そっかぁ。……はい、では質問です。麻生大輔くん、楽器とオケは好きですか?」

あたしは手をマイクの形にして、彼の口元へ持って行った。

すると間髪入れずに、答えが返ってきた。

「好きです」

ためらいなく言い切った。
恥ずかしがらずに、言い切った。

「それなら大丈夫! 好きって気持ちは、すごいエネルギーを生み出すんだよ!」

彼は、びっくりした顔であたしを見た。
……っていうより凝視でしょ、それ。

ありゃ、クサいセリフだったね。
今時の若者には流行らないかな。

「あはっ。じゃ、お疲れっ!」

恥ずかしくて、あたしはその場から早足で立ち去ったのだった。



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