復讐の女神
旅行が終わり、週明けからの出勤となった。
事務所の中はゆりにとって今までで一番居心地の悪い場所となった。
人から避けられていることが空気で分かった。
どうやら、ゆりが片山課長の部屋に入り、森村を激怒させたことが
社内全体に知れ渡っているようだった。

ゆりが、仕事をしていると石井から「ちょっと」と呼び出しがあった。
ゆりが彼のいるラウンジに行くと、石井は自販機でコーヒーを買い、
「七瀬さんもどうですか？」と声をかけた。

ゆりが断ると石井は気にすることなくプルタブを開け、
缶コーヒーを飲み始めた。

「あれは、まずいっすよ。夜這いでしたっけ？森村さんが怒るのは当たり前ですよ」

石井はゆりを慰めるというよりは
ゆりに説教するように言った。

「俺、前にも言いましたよね？片山課長は止めとけって」

「はい、そうですね」

「ちゃんと言われた通りにしないから、七瀬さんバチ当たったんすよ」

「そうですね」

「片山課長のこと好きなんすか？」

「・・・・・」

応えないゆりを見て、石井は缶コーヒーを飲むのを止め、
ゆりの方を見下ろした。

「なんで応えないんすか？」

「悪かったと思ってます。前々から森村さんには申し訳ないとは思ってましたが
犠牲は承知の上でした。そうでもしないと成し遂げられないと思ったので・・・」

「成し遂げられないって。そうまでして片山課長を手に入れたかったってことですか？」

呆れるように石井が笑うと「もう、失敗したんだから
ここはすんなり引いた方が身のためですよ」と言って
缶コーヒーを飲み干し、缶をくずかごに捨てた。

ゆりは、石井を見上げた。

そのゆりの目に一瞬石井はたじろいだ。

「ご忠告ありがとうございます」

そう言うとゆりは、その場を後にした。
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