復讐の女神
ゆりが事務所に戻ろうとして携帯を見たときだった。
メッセージが入っているのに気づいて、
ゆりはすぐさま会議室へと足を運んだ。

メッセージは片山課長からのもので
「返したい物がある」と書いてあった。

ゆりは一度周りを確認した後、会議室の扉を開け、中に入った。

片山課長はゆりに背を向け、窓際に立っていた。

ゆりは、恐る恐る彼に近づくと
「返したい物って?」と声をかけた。

片山課長は後ろを振り返ると懐から
ナイフを取り出した。

「!?」

自分が落としたナイフだと気づくと
ゆりは驚いて彼を見上げた。

「捨てる訳にもいかないから預かっておいた。
今、返すよ。」

そう言うと片山課長はゆりの右手にナイフを握らせ、
自分の方に向けるように構えさせた。

ゆりは何事かと思い、驚いた表情で彼を見た。

「俺を殺せ」

「え?」

「俺を殺したかったんだろ?
だったら、俺をこの場で刺せ。
今やらないともう二度とチャンスはないぞ」

そう言ってゆりにナイフを握らせた状態で、その上からも片山課長の手でゆりの手を握り、
誘導するように自分の胸に刃を近づけた。

「何の真似よ、止めてよ」

「兄も望んでることだ、早く殺せ。じゃないと、このまま唇を奪う。
キスをされたくなかったら早く殺せ」

片山課長は手を離し、ゆりの頬を両手で包むように触れると
そのまま自分の顔をゆりの方に近づけた。

「早くやれ」

少しずつ二人の距離が近づき、あと5cmで唇が触れそうだった。

ゆりは目を瞑り、刻一刻と迫る選択にどうしていいかわからず、
そのままナイフを持つ手を下ろした。

それに気づき、片山課長は顔を離した。
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