復讐の女神
ゆりの意識が戻り、目が冷めると病室のベッドで寝ていることに気づいた。

「起きたか?」

声がしてゆりは、天井から彼の方に視線を動かした。

ゆりは体を起こそうとしたが、その瞬間胸に痛みが走ったため
止むを得ず寝たまま状態で片山課長を見た。

「無理をするな、命に別状はなかったとは言え、胸に一突きしたんだ。
安静にしてろ」と少し怒りを滲ませたように片山課長が言った。

「あ、あの・・・」

「なんで死のうとしたんだ」

ゆりの言葉を遮って、片山課長が聞いた。

「死のうと思ったんだろ?」

「・・・・・」

「なんで俺を殺さなかった」

「・・・・殺せなかったのよ・・・・」

「なんで・・・」

沈黙となった。ゆりは、視線を落とすと、一つため息をついた。
目を閉じ、深呼吸をし、どんどん込み上げてくる感情を抑えるように
もう一度深呼吸をすると目を開き、視線を片山課長に戻し、
意を決して言葉を発した。

「あなたを・・・愛してしまったから・・・」

ゆりは、堪えきれずまた深呼吸を行った。

もう一度心を落ち着かせるとまた、彼の方を見て話をし始めた。

「もちろん、涼くんのことを忘れた訳じゃない。けれど、
どうすれば良いのか分からなくなった。
信念を貫けば良いのか、それを裏切って弟を愛せば良いのか、
どちらも私には選べなかった・・・。

どちらも選べないから死のうと思った。
もう、終わらせようと思った。こんな苦しみから解放されたかった・・・」

そう言うとゆりは一筋の涙を流した。

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