復讐の女神
すると今度は片山課長がため息をついた。

「なんて、馬鹿なことをしたんだ・・・」

どちらか言うとゆりではなく、
自分を責めているような感じに思えた。

「30年前のあの悲劇の時、俺はゆりと初めて出会った。
衝撃的な出会いだった。ゆりは、覚えてないと思うが
俺と同じ歳くらいの幼い子が自分の父親を睨んでいた。
あの目が、あの燃えるような怒りの目がいつか必ず
俺たち一家に災いを起こすのではないかと思ってた。

だけど、それと同時にずっとあの女の子が
俺の脳裏に焼きついて離れなかった。
会いたい、今どうなっているのか、元気にしているのか、
兄の死を今でも覚えているのか知りたかった。

俺も進路の時に父さんを恨んだことがある。
それは、俺は大学卒業後、大学院に行きたかったんだ。
自然科学の研究に没頭していて、院に進めることを信じて疑わなかった。
けれど、父は俺の就職を希望していた。

父の経営する会社に入れと言われた時、俺は反抗した。
ふざけるなと思った。
俺は、そのまま院に行こうとしたが結局止めたんだ。
父の援助がないこと、今までやっていた研究もどうせ時間の無駄だと
どこかで感じて不安がよぎった時、俺は院に行くのを諦め、
父の言う通り就職した。
けれど、婚約までも勝手に決められそうになった時は
さすがにムシャクシャして女遊びに明け暮れた。
結局それも飽きて親の言いなりのまま婚約も決まったけどな」


一気に話し終えた片山課長を見て、ゆりは驚いた。
彼が初めて見せる弱さにも思えた。

片山課長はゆりを見ると重い口を開いた。

「俺たち、離れた方が良い」

「え?」

突然何を言われたのか分からずゆりは素っ頓狂な声を上げた。

「このまま、俺がそばにいたらゆりを苦しめるだけだ。
だから俺たちは離れた方が良い」

「離れるって・・・?」

「会社を辞めて田舎に帰れ。そして復讐のことも俺のことも忘れて穏やかに暮らせ。
新たな人生をスタートさせるんだ。」

そう言うと片山課長は立ち上がった。
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