復讐の女神

それぞれの道

最後の挨拶をするため、気が乗らないゆりではあったが会社に出勤した。
事務所に入るとゆりは石井に促され、みんなの前で挨拶を行った。

「短い間でしたがお世話になりました。
そして、色々とご迷惑をお掛けし申し訳ございませんでした」と
深々とお辞儀をしながら挨拶を終えた。

一柳は別の女性社員とヒソヒソと話をしていた。
「会社の中で自殺を図ったそうですよー」
「本当にいい迷惑よねー。失恋でショックだからといって
会社でしなくてもねぇ」

ゆりが辺りを見回すと片山課長がいないのに気づいた。
ゆりは、事務所を後にすると片山課長にも最後の挨拶をするため
彼以外誰もいないはずの会議室に向かった。

角を曲がり、会議室がある廊下に差し掛かると
会議室のドアが少し開いているのに気がついた。

少しずつ近づいていくと何やら人の声が中から聞こえてきた。
そしてどこかで嗅いだことのある甘いフローラルの香りも漂い始め、
ゆりは恐る恐る扉の方に近づいた。

「・・・・好き・・・・」
吐息交じりの色っぽい女性の声が聞こえ、思わずゆりはドキっとした。
そして、扉を少し開け恐る恐る中を覗くとそこには
片山課長と森村が抱き合い、キスをしてる姿があった。

重ね合う唇は激しさを増し、妖艶な二人の甘美なひとときにゆりはショックを受け
その場から一歩も動くことが出来なかった。

ゆりの胸は張り裂けそうだった。これ以上、二人の愛する姿を見たくないのに
目が離せなかった。すると扉がギィと鳴り、二人がゆりの存在に気づいた。

森村は恥ずかしがることもなく、ゆりに近づくと
「お別れの挨拶ですか？」と事情を分かってたように聞いてきた。

「あ、はい。そうです。すいません、お取り込み中のところ」

「別に大丈夫ですよ。仕事中にしてる私たちの方がいけないので。
それじゃ、弘樹さん、私は戻りますね」

そう言うともう一度片山課長にキスをして
ゆりを一瞥してから会議室を後にした。

残されたゆりは、どうしたら良いか分からずぼんやり片山課長の方を見ると
彼は濡れた唇を手の甲で拭いながら「何か用か？」と聞いてきた。