復讐の女神
「あー今日も食った食った」

椅子を引いて座ろうとした太田だったが、ゆりが読書をしてるのに気づき
「あれ？お昼ずっとここにいたんですか？」と彼女に声をかけた。

ゆりは視線を上げ太田の方を見ると
「あ、はい。そうです。太田くんは何を食べたんですか？」と
気を遣って彼に質問をした。

「カツ丼定食っすよ！この近くにあるんで。
ってか、ずっと七瀬さんがここにいたなら俺もここで食べれば良かったなぁ」

「えーなんで？」

「なんで・・・って。七瀬さん鈍感っすね」

大体見当はついてはいたが、ゆりはあえて笑顔でその場を誤魔化すと
すぐ本に視線を下ろした。

「七瀬さん、何読んでるんすか？」

またもや太田に声をかけられてゆりは視線を上げ彼を見た。

「夏目漱石ですよー」

「うわー渋ー！七瀬さん、渋いっすね！」

「うん、ありがと」

「いや、今のは褒め言葉じゃなくてですね」

「あーマジやっちまったなー！」
そう声を上げながら石井が席に戻ってきた。

「あ、石井先輩。どうしたんすか？」

石井は、机の上に突っ伏すと「うわーマジ情けねー」と言って
頭を抱えた。

「なにか、あったんですか？」

恐る恐るゆりも石井の方を見て声を掛けると
石井は顔をむくっと上げ、「いや、なんでもないっす」と言って
ニカっと笑った。

< 12 / 122 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop