復讐の女神
ゆりの心臓がどくんと鳴った。

「あ、いや、その・・・」

「七瀬さん、こっち向いて」

「い、嫌です。」

「え？」

「嫌です」

この状況をどうしようも出来ずただゆりは
俯いたまま石井が手を離してくれるのを待った。
みんなが見てるかもしれない。
早く手を離してと願っていると

「キャッ！」

いきなり右手を強く引っ張られ、
ゆりは石井の方に倒れこんだ。

何が起きたのか分からず恐る恐る顔を起こしてみると
目の前に石井の胸があり、気づいたらゆりは石井に抱き寄せられていた。

「い、石井さん困ります！早く離してください！」
焦りながらも小声でゆりは石井に訴えた。

ゆりの心臓の鼓動が益々早まり体温は熱くなって
恥ずかしさでどうにかなりそうだった。

「み、みんなに見られますよ」
「良いじゃないですか。見せとけば」
「石井さん！」

平常心を保とうとゆりは突然質問を持ち出した。

「あの、石井さん聞きたいことがあります。」
「ん？」

そう言って石井がゆりに顔を向けると
二人の距離はますます近くなって唇が重なりそうな程だった。

「なに？」

ゆりは、彼の目の前にある唇に一瞬驚いたが
目をそらすと「あ、あの片山課長のことなんですけど」と続けた。

石井はため息を漏らすと
「片山課長じゃなくて俺のことを聞いてくださいよ」と言って
石井は遂にゆりの顎をくいっと持ち上げた。

ゆりは目を大きく見開いた。

石井はまじまじとゆりの唇を見るとすぐにゆりの大きく見開いた目に視線を戻し
「俺のことを聞くなら良いですよ」と言って唇を近づけた。

まずい！このままじゃ！とゆりが思った瞬間だった。
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