復讐の女神
「七瀬さん、今日は泊めてください」

「え?」

突然何を言われたのか分からずゆりは後ろを振り向いた。
石井は帰る素振りも見せずただゆりの方をじっと見て待っていた。

「もう、俺、終電ないんで今日は七瀬さん家に泊めてください」

「え!?あの、いや、その・・・困ります」

「困りますって、俺を野宿させる気ですか?」

「あ、あの、タクシー呼びますんで」

「俺の家、ここから遠いんですよ。タクシー使ったら何万と掛かりますよ。
しかもこの辺は住宅街で、ホテルとかも近くに無さそうですしね」

家に帰る手段が断たれたとしても困ることなく石井はしれっと言った。
まるで始めからゆりの家に泊めてもらうつもりでいたかのようだった。

ゆりにとってこの展開は誤算だった。
タクシーで帰ってもらうつもりでいたが
石井の家が自分の家から遠いことを知らなかった。

ゆりは困った挙句、その場で固まってしまった。

石井はゆりに近づくと更にゆりを困らせるように
冷たく言い放った。

「ここまで無事に送り届けたんですからそれくらいの配慮はしてくれますよね?」

ゆりは、ハッとして石井を見上げた。
彼の申し出を断って心証を悪くしてしまったら仕事がやりずらくなるかもしれないと
ゆりは咄嗟に判断した。

受け入れるしか方法はないとゆりは思った。

無理やり笑顔を作ると
「ちょっと散らかってますけど・・・
それでも良ければ」と石井に言った。

すると石井は嬉しそうに
「ありがとうございます。本当すいません!」と
あまり申し訳なさそうに応えた。

ゆりはまた無理やり笑顔を作って「大丈夫ですよ」と応えると
解錠をし、そのまま彼を自分の部屋まで案内をした。
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