復讐の女神
ゆりは散らかっていると言っていたが
部屋は綺麗に片付いており清潔感を保っていた。

リビングの真ん中にテーブルがあり、その前にはテレビ、
その後ろにはベッドが配置されていた。

石井はジャケットをゆりに渡し、鞄を置くと
ネクタイを緩めながらベッドの上に腰掛けた。

ゆりは、平常を装いながら台所に行くと
そのままお茶を注いでテーブルの上に置いた。

「お茶です。温まりますよ」

そう言ってゆりはお茶を石井に渡した。
石井はお礼を言うとそれを二三口飲んでテーブルの上に置いた。

置かれたお茶を見ていたゆりに突然、
石井から「ここに座ってください」と声をかけられた。

「え?」

石井は左手で軽くポンポンとベッドの上を叩いた。

ゆりはびっくりして目を逸らすと「あ、いえ。私はここで大丈夫です」と
応えた。

けれど、痺れを切らした石井はゆりの手を引っ張ると
無理やり自分の隣に座らせた。

「い、石井さん!痛いです」

すると石井はそっとゆりを抱きしめた。

「い、石井さん・・・」

ゆりはそのままどうしていいか分からず固まっていると
石井は切ない声で「七瀬さん・・・」とつぶやいた。

その切ない声がなんだか妙に色っぽくて
ゆりは身体中鳥肌が立った。

更に石井はぎゅっと抱きしめた。
「七瀬さん、なんか良い匂いがします」

そう言われてゆりはどうしていいか分からず
「あ、の、石井さん」と言って困るばかりだった。

石井はゆっくりと抱擁を弱め、ゆりの顔を見た。
ゆりのかすかに乱れた前髪を指で整えるとそのまま
ゆりの唇に触れた。

石井はゆりの目を見つめて
「ちゅー・・・しても良いですか?」と
聞いてきた。

ゆりは突然の問いに驚き目をパチクリさせた。
「え!?だ、ダメです!ダメ!」

「なんで?」

「だ、だって私たち恋人同士じゃないし・・・」

すると石井は笑い出した。
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