復讐の女神

酔えない時

週明け月曜日、出勤してすぐゆりは石井に呼び出され、
ラウンジに向かった。

チェアーに座り、アイスコーヒーを飲んでいる石井を見つけると
ゆりは彼に声をかけた。

石井は、飲み干したアイスコーヒーのカップをゴミ箱に捨てると
ゆりに手招きをして窓際の方に歩き始めた。

「どうしたんですか?」

ゆりがキョトンとした顔で石井に近づくと
石井は咳払いをし、ゆりと目線を合わせるために
少しかがんだ状態で話をし始めた。

「あの後、大丈夫でしたか?」

「あの後?」

「あの、飲んだ後です。突然俺と片山課長で入れ替わったから
びっくりしたんじゃないかと思って・・・」

「あぁあ!」
合点がいったでも言うようにゆりは元気な声を上げた。

「あの時、片山課長なんか言ってませんでした?」

「いえ、別に。」

「え?何も?」

「えぇ」

もちろん、事の顛末を片山課長から聞かされていたが
あえてゆりはそれを言わなかった。
今後のことも考えてのことだった。

「そうですかぁ。それは良かった」と言うと
安心したのか石井は手の甲で隠すように不敵な笑みを浮かべた。

「たまたま、グランドホテルで会ってバトンタッチしたと聞きました」

「あぁ、そうそう。七瀬さんの酔いが醒めるまで
ホテルのロビーで休憩してたんですよ」

「へぇ、そうですか」
ゆりは、白々しいと心の中で思ったが表情に出すことはしなかった。

「それよりも無事に帰れましtか?」
石井が心配そうに聞くと
「ええ。片山課長が家まで送ってくれたので大丈夫です。」と
快活に応えた。

「あの片山課長はその後どうしたんですか?」と
石井は一番気になっていたことを尋ねると
ゆりはキョトンとした表情で
「え?駅でタクシー拾うと言って帰って行きましたけど・・・」と応えた。

すると石井は「あそこから片山課長の家まで結構遠かったと思うが・・・」と
独り言のように呟いた。
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