復讐の女神
「乾杯しましょう」

ゆりがソファに腰掛け、グラスを構えると
片山課長も「そうだな」と言ってグラスを構えた。

「「乾杯」」

ふたりのグラスが軽くぶつかり、
カチンと言う音が鳴った。

ゆりが一口飲むと
片山課長もグラスを傾け口につけた。
彼の喉仏が揺れるのを確認すると
ゆりは安心してグラスをテーブルに置いた。

彼もテーブルに置くと
「ここのワインはうまいな」と言った。

「えぇ、本当に格別に美味しいわね」

すると片山課長はゆりを包み込むように抱きしめた。
ゆりも、一瞬驚いたが受け入れるように彼の胸に顔をうずめた。

「このまま、ずっとこうしていられたらいいのにな」

「・・・・うん、そうだね」

「もし、俺がこの手を取って、俺たちを知らない場所で一緒に暮らそうって言ったら
俺に付いて来るか?」

「え?」

ゆりは驚いて顔を上げ、彼の方を見た。

「一緒にここから逃げようって言ったらついてくるか?」

ゆりは、目を伏せ彼の胸に顔を埋めると片山課長をぎゅっと抱きしめた。

「うん・・・」

ゆりの声は少し震えていた。

このまま本当に復讐を忘れ、何もかも忘れ、
この重圧から解放されたらどんなに良いだろうと
ゆりは一瞬でも本当にそう思ったのだった。

たとえ叶わなくてもずっと片山課長と一緒にいられたら
どんなに幸せだろうと思った。

でも、ゆりには出来ないことだった。
もう後戻りは出来ないことをゆりが重々承知しているからだった。


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