武士(もののふ)は黙して座する
その男は、まるで湧いて出たかのように石段に腰掛けていた。

伸び放題に伸びた髪の毛が髻(もとどり。髪の毛をまとめて頭の上で束ねた所)で揺れている。

精悍な顔には無精髭が伸びている。

体格は僧侶と同じくらい。

肩の辺りから袖のちぎれた着物を着ているお陰で、張り詰めた腕の筋肉が露わになっていた。

着ている着物も袴も、ほつれ、擦り切れ、薄汚れている。

何より目を引くのは、彼が背中に背負っている、身の丈以上の大きさの刀剣。

…どう見ても、現代の人間の出で立ちではない。

「お前さんか、この城跡に姿を見せるっていう武者の霊ってのは」

僧侶が錫杖を肩に担いで言った。

「この御影市のお偉いさんがな、城跡を整地して、ここに新しいホテルを建設してぇんだそうだ。だがお前さんが現れて、工事関係者を脅えさせるそうじゃねぇか」

「……」

石段に座ったまま、男は沈黙を守っていた。

僧侶は尚も語る。

「見た所、地縛霊の類らしいが…どうだ、この場を立ち退いちゃあくれねぇか」

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