すべてはアオに染まる
●1
愛しい人の名前呼ぶ
とあるマンションの一室。
真っ白で清潔感のある部屋に不釣り合いな、真っ黒な男。
「……ばかなの?」
その男、澤井の頬を私は軽くペチンと叩いた。
「俺が決めたことですから、いいんです」
「言い訳なんか聞きたくありません!」
先生っぽい口調で言ってから、もう1回頬を叩く。ぺちぺち。
するとさすがに怒ったらしく、澤井は私の手首を掴んだ。
真っ黒の目に見つめられる。
「あのねお嬢さま。俺は喜代(きよ)さまに怒られたって、いいんですよ」
その名前に静止する。そんな私に、澤井はくすり笑った。
「あなたのそばにいられたら、それでいいんですよ。お嬢さまはそれが嫌ですか?」
丁寧に丁寧に紡がれたその言葉。
「……ううん。私のイチバンは、これからもずっとずっと、澤井だけなんだから」
呪文のように唱えた言葉は、私の心を軽くさせた。
私の一番は澤井。
澤井の一番は私。
これからも一生変わることのないその事実は、なんて心地良いんだろう。