黄昏の千日紅
そよそよと、少し開いている窓の外から生温い風が入り込んで、私の頬をそっと撫でる。
__ああ、
気持ち良いね、現実の世界は。
ねえ、ハチ。
私ね。
ずっと暗くて、果てしなく続く螺旋階段を、長い間彷徨っていたの。
電気もなくて、真っ暗で、何も見えなくて。
上を見上げてみると、ほんの少しだけ、本当に少しだけ、光が射し込んでいるように見えたのだけれど、幾ら走って登ってみても一向に辿り着かなかった。
走って近寄っていっている筈なのに、どんどん遠退いて行く光に、必死で手を伸ばしながら、一段一段駆け登るのだけれど、まるで進んでいないかのように届かなくて。
いつか、夢の中で見た、あの宝石みたいな星のように、手が届きそうで届かなくて、とても、もどかしかったんだよ。
その時の夢の中ではね、私の隣に、ハチがいたんだよ。
いつものように、ハチが隣に居たんだよ。
ずっと続くって思っていたのにね、こんな幸せな毎日がずっと。
それを壊したのは、私だったんだね。
ごめんね、ハチ。