黄昏の千日紅





篠田樹先輩。



私の二つ上の彼は、大体いつも休み時間や放課後になると、中庭のベンチに腰を掛けており、何処か遠くを見つめながらぽつり、と言葉を発している。




「626862089…」



「樹先輩」




なるべくゆっくりと、私が先輩の名前を呼ぶと、彼はぴたりと数字を言うことを止め、こちらを見た。





私はそれだけのことがただ嬉しくて、笑みを浮かべる。





先輩の、漆黒の艶のある綺麗な髪が風になびかれ、サラサラと揺れている。




肌はまるで雪のような白さ、そして相反する髪色が、またそれを一層際立たせている。




彼の瞳は、穢れを知らない幼い少年のように、キラキラと輝きを放つ。


桃色のチークを載せたように頬を染めながら、真冬の季節にも拘らず、彼はこの場所にいる。




例え真夏の炎天下の中でも、彼は涼しい顔をして表情一つ崩さず、テディベアと共にいるのだ。






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