黄昏の千日紅
樹先輩を初めて見掛けたのは、去年、まだ私が高校に入学して間もない頃。
私の教室の前の廊下で、昼休みに友人と話している時だった。
その窓から、ちょうど見下ろせる位置にある中庭で、その時も先輩はテディベアを抱えながらベンチに座っていた。
初めて彼を見た時の印象は、” 個性的な人 ”だった。
というのも、ベンチに普通に座っている訳ではなく、その上で体育座りをしながら、高校生が大きなテディベアを抱えていたからだ。
その日の放課後、彼がいる様子が廊下から見えたので、正門へと向かう帰り際、気になって中庭の前を通ってみた。
何故だか、彼を近距離で見た瞬間、心臓の鼓動が大きく波を打ち、私は彼に釘付けになったことを覚えている。
無表情で遠くをじっと見つめているその姿は、高校生にしてはどこか幼く、しかし憂いを帯びていて、途轍もなく儚げに見えた。
強い風が吹いたなら簡単に吹き飛ばされてしまいそうな、誰かが手で強く押したなら、安易に粉々に砕け散ってしまいそうな、そんな繊細さが彼の全身を纏っているように見えた。
そこからは無意識だったと思う。
私は自然と彼に歩み寄り、話し掛けていた。
しかし、彼はこちらを一切見ることなく、ただじっと、遠い目をして黙っているだけであった。