黄昏の千日紅
「…もう、三ヶ月ですか」
「はい。退院後は念の為、心療内科に行っていただきたいのですが」
「…分かりました」
隣で白衣を着た男性の先生と、私の母親が小さな声で話している。
私は真っ直ぐ天井を見つめながら、その話し声に耳を傾けていた。
どうやら、手術を終えてから、三ヶ月も眠り続けてしまっていたらしい。
暫くして、白衣の医者がこちらに軽く頭を下げ、病室から出て行った。
私の額に、そっと温かい掌の温度を感じる。
「…良かった。本当に」
涙声で話す母親に視線を向けると、少し前より皺の溝と、目の下の隈が濃くなったように思う。
私の所為かな。
私は、見ていられなくなって母親の顔から顔を背け、枕に顔を埋めた。
規則的な機械音が、私の鼓膜を微かに刺激する。呼吸をする度に、白い靄が目の前に映る。
「…夢を、見ていたの」
そっと、私は言葉を紡ぐ。
「夢?」
母が答えた。
「ハチの…」
と言うと、少しの間を経て、彼女は泣き始めた。顔を両手で覆いながら泣いているのか、声が少しくぐもって聞こえる。
ああ、
私は、何度母を泣かせればいいのだろう。