黄昏の千日紅






「先輩、好きです」



「………」



「大好きです」



「……ちょこ」






先輩といるようになって、半年が過ぎた頃から常備し始めたポーチの中から一つ、包装してあるチョコレートを取り出すと、それを彼に渡す。




彼は、チョコレートが大好物らしい。




「はい、どうぞ」




私は、先輩がゆっくりとした手つきで、チョコレートの包装を剥がしているのを見ながら、自然と笑みが零れた。



幸せだなあ。






そんな気持ちの片隅にある、卒業という言葉。




二月に突入してから考えることが格段に増えたそれは、いとも簡単に私の心を傷めつける。



先輩がもうすぐ卒業し、この学校から去って行く。




いつも当たり前のように中庭にいる、彼の姿を見ることが出来なくなってしまう。




そして、彼の隣に座っていられることが、当たり前ではなくなる。




そのことが授業中でも、家に居ても、例え彼の隣にいても、いつでもふとした瞬間に、頭の中を過って私を苦しめる。





空を見上げれば、からっとした空気の冬晴れで、何処までも果てしなく続く群青が、私のこの狭い心を嘲笑っているかのように思えた。





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