黄昏の千日紅
「先輩」
「………」
「私だけですよね、寂しいって思うの」
「………ちょこ」
私は、勝手に出てきてしまいそうになる涙をぐっと堪え、無理矢理笑顔を作り、彼にチョコレートを渡した。
「どうぞ」
「………」
「先輩、」
「……3.141592653589…」
先輩は、チョコレートをゆっくりと咀嚼してからそれを飲み込むと、いつものように遠くの一点を見つめながら、円周率を言い始めた。
私はその姿を見て、少しだけ微笑んでから、彼に「また来ます」とだけ告げ、中庭を後にした。
歩く度に、私の靴に踏まれた砂利たちが声を上げる。
私は、その音を無心に聞きながら涙を堪えるので精一杯だった。