黄昏の千日紅
「…ひな」
私は彼に満面の笑みを浮かべて見せ、すかさず鞄の中から、可愛らしいクマのラッピングが施されてある箱を取り出した。
そして、それを彼の前へ差し出す。
「ハッピーバレンタインです。先輩」
今日は二月の十四日。
私は友達にあげるような市販の物とは異なる少し特別なチョコレートを、昨日の夜からせっせと、先輩の為に作った。
「……ばれんたいん」
「はい、先輩の好きなチョコですよ」
「……ちょこ」
チョコという単語を聞いて、余程嬉しかったのか、少しだけ口角を上げた先輩の表情を見て私の胸が高鳴った。
彼がゆっくりと箱のラッピングを剥がし始め、蓋を開けるまで私の鼓動の速さは治らなかった。
逆に、どんどん速くなっていく。
「……くまだ」
「はい、先輩いつもクマさんと一緒にいるから」
私は彼にそう告げると、先程よりも更に口角を上げ、唇が綺麗な弧を描いた。
彼は箱の中から、拳サイズのクマ型のチョコレートを、ゆっくりとした動作で取り出すと、顔を綻ばせながらそれを口に運んだ。