黄昏の千日紅
「ありがと」
不意にそんな言葉が、風に乗って私の耳に入り込む。
とても小さくて、聞き取れるか聞き取れないかの微かな声。
俯いていた顔を、思わず上げ先輩の方を見遣ると、彼は先程と同じ体制のまま、半分くらいになったチョコレートを食べていた。
私は、自分の都合の良いような言葉を、幻聴へと変えてしまったのであろうか。
いや、あれは、絶対に先輩の声だったのだけれど。
私はそのまま彼をじっと見つめていると、綺麗な宝石のような瞳がこちらを見据え、互いの視線が絡み合う。
それに驚いて、私の心臓が少しばかり跳ね上がった。