黄昏の千日紅





先輩からのお礼の言葉が、私の脳内をぐるぐると、何度も何度も駆け巡る。
何に対してのお礼かは分からない。


チョコレートに対してか、ないであろう私の告白へのお礼か。




しかし、何に対してであっても良い。
彼が私に初めて口にしたその言葉を、目の前で聞けたことが、そして徐々に口数が増えていく彼を見られることが、私はただ嬉しいのだから。





彼が泣き噦る私を見て、「たべる?」と、顔が半分だけになってしまったチョコレートを差し出してくれる。私は顔を横に振る。
彼の温かい心にまた泣いた。




彼は、じっと、私の涙でぐちゃぐちゃになった顔を見ながら、綺麗な形の唇を開いて言葉を発した。






「………っ…」






その言葉に驚きすぎて、先程まで溢れていた涙は完全に目の奥に引っ込んでしまった。







それこそ、幻聴だったのかもしれない。





きっとそうだ。これは夢だ。
私は途轍もなく幸せな夢を見ているのだ。




けれど、今日はきっと、世界の誰よりも一番幸せな日であることは間違いない。







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