黄昏の千日紅
「ひな、すき」
私達の間に、冷たい冬の風がすっと通り抜けて行く。
目の前で木の枝から、するりと落ちた枯葉を風が掻っ攫っていった。
地面にある落ち葉は、まるで踊るように舞っている。
私の頬を、冷たいけれど心地良い風がそっと優しく撫でる。
やはり、駄目だ。
喉の奥から込み上げるものを圧し殺そうとする。けれども、堪えきれない嗚咽が自然と私の口から漏れる。
息が苦しくて、呼吸がし難くなる。
「……っ…わたしも、です」
先輩に出会ってから、確実に私の涙腺は緩くなったように思う。
ああ。
先輩は、私を何度泣かせるつもりだ。
どれ程、貴方を好きにさせるつもりだ。
これ以上好きになってしまったら。
私は。
私は。
私は、先輩の左手にそっと自分の右手を添える。
先輩の手の甲がひんやりとしている。
幼い子供のように柔らかく、少し小さい。
その手を、先輩がじっと見つめると少しだけ首を傾げた。
そして、覚束ない、ゆっくりとした動きで自分の手を反対に向ける。
私の瞳からぽろぽろと、落ちていくそれは、小枝から落下した枯れ葉のようだ。
右手だけに神経を集中させる。
このままでいたい。いつまでも。
時間が止まってしまえばいい。
このまま、ずっと。
私は、冷たい空気の中で、温かい肌のぬくもりを、その感触を、そっと感じながら、先輩の顔を見つめて微笑んだ。