黄昏の千日紅
こうしていると、当時の学生時代に戻ったようで、何となく歯痒いような、懐かしいような、変な感覚だ。
見た目も、環境も、年月を重ねれば変わってしまうことは多いけれど、彼を好きだという気持ちは現在も何一つ変わっていない。
彼の横顔を盗み見ると、特別格好良い訳ではないのに胸がときめいてしまう。
格好良い訳ではないのに、と言ったら彼はきっと怒るだろうな。
彼を見る度に” 好き ”という気持ちを改めて実感させられる。
生暖かい風に乗って、どこかの家の風鈴の爽やかな音が耳に入ってきた時、その音と共に女性の高い声が私の鼓膜を擽った。
「ごめんごめん!お待たせー!」
私達は、声の主の方へと同時に顔を向ける。
女性は、砂場で泥遊びをしていた子供に声をかけ、優しく頭を撫でた。
「裕太、良い子にしてたー?」
「ママ!ぼく、おだんごつくったよ」
「あら!じょーずだねぇ、裕太」
裕太くんは顔を綻ばせると、母親に勢い良く抱き付いた。
「裕太、おてて洗ってきなー」
「はあーい」
裕太くんが近くの水道に駆けて行くと、隣に座っていた彼がベンチから離れたことを合図に、私も少し遅れて立ち上がる。
私の表情が、徐々に緩んでいくのが自分で分かった。