黄昏の千日紅
実家までの道のりを、覚束ない足取りでゆっくりと歩く。
大学を卒業し、職場が一緒になったことに、浩太よりも私の方が何倍も驚いただろう。
それ以上に、私は嬉しかったのだけれど。
もしかしたら、なんて抱いた淡い期待は左手の薬指を見てすぐに掻き消されたのだけれど。
初恋の相手となんて、実る筈がない。
最初からそんなこと分かっていたのに。
分かっていたのに。
「…っ…うっ…」
夕方になったとはいえ、夏の気温は未だ高く、私の額からは汗がたらりと垂れ、地面に歪んだ染みを作っていく。
蝉の鳴き声、風鈴の微かな音、そして自分の声にならない嗚咽が複雑に入り混じる。
良かった。
今日が夏で良かった。
暑くて良かった。
これならきっと、汗か涙か、分からないであろう。
帰れば両親の笑顔が待っている。
家に着いたらまた笑えばいい。
だから、少しだけ。
今は、
少しだけ。