黄昏の千日紅
春。
出会いと別れの季節。
新鮮たる穏やかな気候、暖かい空気に包まれる中、人々は皆、それぞれ複雑な心境なのであろう。
喜ばしいことも、悲しく切ないことも、胸の内にそっと秘めているのであろう。
扉の外を眺めることを止めて、近くに立つ人間をそっと観察する。
この、スーツを身に纏った欠伸をしているサラリーマンも、その横で立ったまま器用に小説を読む、眼鏡をかけたOL風の女性も。
まだ着慣れていないのか、服に着られている感じがする、真新しい制服に身に包む女子学生も。
耳にヘッドホンをしながら、少しばかりリズムをとっている、落ち着きのない少年も。
皆、何かに悩み、悲しみ、苦しんでいるのであろうか。
どこか緊張感のある重々しい空気の電車内は、春を迎えるといつにも増して一段と息苦しく感じる。
きっと、このようなくだらないことを考えているのは私くらいだ。
朝の眠気の漂う空気の中で、人間観察などする人間は、まずいないであろう。
皆、自分のことに必死だ。
一生懸命だ。