黄昏の千日紅
私は薄ら笑いを浮かべる。
「だけど、今は親に感謝してる。勝手に決められた高校に入学して、また会えるなんて思ってもみなかったから」
「……何言ってるの」
俯くその顔からは、自分を卑下するような、蔑んだ悲しい表情しか読み取れない。
「だけど、こんな俺じゃ、今のままじゃ駄目だと思って。立派になるまで、約束は果たせないと思った。…言い訳に聞こえるかもしれないけど」
「……どういうこと?」
何が言いたいのだ。
意味が分からない。
彼が俯いている顔をゆっくりと上げ、相互の視線が絡む。
「会いたかった。さくらに」
「……私に?」
「うん」
「嘘だ…」
あり得ないだろう。そんなの。
信じ難い。
信じられるか。
何もかも。
「高校は中退した。すぐに父親に頭下げに行ったんだ。結婚したい人がいるからって。すぐに会社の勉強もするからって」
風に乗って桜吹雪が、私達の間をすうっと通り抜けていく。
耳元で風の音がごうごうと響いて煩い。
近くにある筈の校舎からの鐘の音が、遠くにあるかのように、微かに聞こえてくる。
「結婚して、さくら」