黄昏の千日紅
私の呼吸が。
すべての動きが。
時間が、
止まった気がした。
驚いて目を見開く。
私の瞳を歪ませていた水の膜は、完全に引いてしまって、もう乾いてしまった。
「俺がさくらの光になる」
ああ、この人は、
本当に狡い。
こんなに長い時間私を放っておいて、突然現れて、私の心をいとも簡単に掻っ攫っていくのだから。
本当に、厄介な感情だ。
恋心なんて。
厄介だ。
だけど、
だけど、もう一度、
光を見たい。
__そう思う私は、もっと狡いのだろうか。
私は、彼の存在を確かめるように背中にゆっくりと腕を回した。
その彼が、一瞬体を揺らし、更に力を込めて私を抱き締める。
唯一の光だった祖母が居なくなり、全ての光を失くした私に、再び光を灯してくれたのは。
「優くん」
「さくら」
___私達は春の風の吹く路を、手を取り合って歩く。
その二つの手の中に隙間など、もうどこにもなかった。