黄昏の千日紅
「…はち」
窓の外から室内へと吹いてくる風が、そっと、私の頬を優しく撫でる。
泣かないで、とでも言うかのように、私の涙を乾かしていく。
カーテンがひらひらと揺れ、生温い空気が室内を優しく包み込んでいく。
ああ。
そうか。そうだよね。
私は。ハチの分まで。
「いきる…」
ぽつりと零した言葉に、母が撫でてくれていた手を止め、ゆっくりと私の顔を覗き込んだ。
「……おか、さん。わたし、生きる」
ずっと辛かった。
けれど、目の前で愛犬の死を見た母だって、辛かった。
辛いのは私だけではない。
目に涙を浮かべる彼女に、
「お母さん、ありがとう」と言った。
辛いのを我慢してくれていて。
私の前で強くいてくれて。
ずっと、私の傍にいてくれて。
ハチ、私を助けてくれてありがとう。
私を救い出してくれて、ありがとう。
私と出逢ってくれて、
ありがとう。