黄昏の千日紅





本棚の死角で、存在に気付かなかったその人物は、食い入るように本に目を向けていて、私の存在にまるで気付いていないようだ。



窓から射し込む、夕焼けの淡い赤みを帯びた光が、彼の琥珀色の髪を明るく照らし、朱色に染めている。





本に目を落とす彼の長い睫毛が、顔に影を作っていて、俯いていても彼から醸し出される鮮麗な雰囲気は、妙に私の鼓動を加速させる。





AクラスのA。





私は、彼の手元にある本の表紙を盗み見る。




その本が、” 残炎の候 ”であることに驚いて、思わず「…あ」と声を漏らしてしまった。




自分の声に自分で驚き、私は一瞬たじろぐ。




その声に彼が小さく肩を揺らすと、ゆっくりとその端正で綺麗な顔が私の方へと向いた。




二人だけの空間で、視線が絡み合い、気まずくなった私は軽く彼に会釈すると、彼は些か顔を強張らせて、一瞬綺麗な瞳を揺らした、ように見えた。




暫くの沈黙が続き、居た堪れなくなった私は、「その本、面白いですよね」と話を振ってみる。







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