黄昏の千日紅
然しながら、彼は意外にも無口なのか、それとも私が地味過ぎて会話すらしたくないのか、一向に口を開く様子が見えない。
少しの沈黙が続き、何となく居心地が悪い。
そして彼が漸とゆっくりと頷きを見せ、視線を再び本へと戻したかと思えば、突然ぱたんっと勢い良く本を閉じて口を開いた。
「あの、」
「…はい」
「この本、借りたいんですけど…」
初めて近距離で聞いた彼の声は、低めの透き通った綺麗な声で、この人はどこまでも綺麗なのかと驚きながらも「分かりました」と答えた。
そして、彼をカウンターの前まで来るよう促し、裏表紙を開いた所に付いているネームカードに名前を記入するよう言う。