黄昏の千日紅
「永、聞いてるう?」
隣から、わざと出しているのか、甘ったるい声で話し掛けてくる香水臭い女の声がする。
そちらに横目で目を向けると、目元に虫でも貼り付けているような厚化粧をした女が、こちらを上目遣いで見上げていた。
面倒臭い、気色悪い。
語尾を伸ばすな。普通に話せ。
言いたいことを、ぐっと喉の奥で圧し殺す。
香水を何回振りかけているのか知らないが、明らかに付け過ぎているその強烈な臭いに、思わず顔を歪めそうになってしまうのを堪え、笑顔で適当な言葉を返した。
勿論聞いている筈がなかった。
そして俺はあんたの名前も知らないだなんて、言える空気でもない。
購買までの廊下の道程を、わざわざ大勢の生徒達と群がって歩いて行く。
張り付けた仮面の下の俺の顔は、疲労感で溢れている。
そんなことに誰も気が付かないだなんて、所詮上辺だけの関係なのだと、容易に分かる。
いつものように、人でごった返している購買のすぐ前の自動販売機で、ふと、一人の女子生徒が視界に入った。