黄昏の千日紅






突然目の前で、「…あ」という高い声が鮮明に耳に入ってくる。




静寂の中で突如響いたその声の主の方に目をやると、俺自身も心の中で「あ」と呟いた。




机越しに立つ、大きな猫のような瞳でじっとこちらを見据える彼女。




この空間で、俺の鼓動が彼女の耳に届いてしまうのではないかと不安を覚える程、大きく音を立てて鼓動を刻んでいく。




やばい、何を話そうか。



何て切り出せば良いか。



一人で悶々と頭の中で考えていると、彼女が突然口を開いた。





「その本、面白いですよね」





彼女の透き通った綺麗な声が、俺の鼓膜を僅かに刺激する。



今、あの彼女に話し掛けられている。





冷静ではない筈だが、しっかりと頭ではそんなことを分析してしまって、嬉しく、小っ恥ずかしい感覚になる。



自分の顔が次第に火照っていくような気がして、小さく頷いてから、自分の顔を隠すように本に目を向けた。



何動揺してるんだ俺。




この空間に来て、彼女と何らかの接点を持ちたいと思ったのは自分自身であるのに、いざ目の前にすると突然逃げ出したい衝動に駆られる。



何なんだこの気持ち、この感覚は。


女になんて、慣れている筈ではないか。


散々女と遊んできたではないか。



こんなに女々しい自分など知らない。
そして、初めて羞恥心というものを知る。





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