黄昏の千日紅
俺は、沈黙を破るように勢い良く本を閉じ、彼女に「この本を借りたい」と告げた。
彼女が図書委員であるのかも、確信はなかったが。
しかし彼女は少し驚いた表情をしてから、ネームカードに名前を書くよう促してくれた。
という事は、俺の根拠のない仮定はもしかすると正しかったのかもしれないと、後に安堵する。
彼女の小さな背中について行く。
今日もボブの綺麗な髪は、くるりと内側に巻かれている。
彼女の前で、自分の名前を書くだけ。
しかし、彼女がこんなにも至近距離にいると考えただけで、何故かペンを持つ手が震えてしまいそうになる。
冷静を装うように、出来るだけ早く名前を書いた俺は、何か言葉を告げてから、颯爽と図書室を後にした。
何と言っていたかもあやふやだ。
「あーあ …かっこわりぃ、俺」
ぽつりと呟いた俺の声は、騒がしい生徒の声に掻き消され、一人悩ましくがしゃがしゃと頭を掻いた。