黄昏の千日紅
学校を出てから、家に着くまでのことは、正直あまり覚えていない。
せめて、彼女の名前だけでも聞いておけば良かったと後悔しながら、ブラックコーヒーの入ったマグカップに口を付けた。
ベッドの上に寝転んで、借りた小説をぱらぱらと捲り、先程の図書室の情景を頭に浮かべ自分を情けなく思う。
どうしたっていうんだ、この俺が。
「はぁ…」
「おにーちゃーん、帰ってる?」
突然、部屋の扉越しに篭った中学生の妹の声がする。
「あぁ」
「勉強教えてー」
「あぁ」
勢い良く扉を開けて部屋に入ってくる、教材を抱えた妹の麻衣。
「素っ気ない兄貴だなー」
ぶつぶつと小言を吐きながら、机にバサッと教材を並べた。