黄昏の千日紅






学校を出てから、家に着くまでのことは、正直あまり覚えていない。




せめて、彼女の名前だけでも聞いておけば良かったと後悔しながら、ブラックコーヒーの入ったマグカップに口を付けた。




ベッドの上に寝転んで、借りた小説をぱらぱらと捲り、先程の図書室の情景を頭に浮かべ自分を情けなく思う。

どうしたっていうんだ、この俺が。



「はぁ…」





「おにーちゃーん、帰ってる?」





突然、部屋の扉越しに篭った中学生の妹の声がする。



「あぁ」


「勉強教えてー」


「あぁ」



勢い良く扉を開けて部屋に入ってくる、教材を抱えた妹の麻衣。



「素っ気ない兄貴だなー」



ぶつぶつと小言を吐きながら、机にバサッと教材を並べた。






< 206 / 284 >

この作品をシェア

pagetop